説経『かるかや』 家族像平松 考察
- <要旨> - 説経『かるかや』は地方の有力な武家の興亡盛衰を素材とする語り物である。作品 では家父長の出家と取り残された家族構成員の喪失感と犠牲、また来世に繋がる家 族の因縁と親子地蔵の由来などの本地譚的な構成が見られる。ところが語り手は話 の展開において家族構成員の役割及びその存在性を固定することによっていわゆる' 理想的な家族像を創り出している。したがって本稿では紐帯と排除の様相を中心に それぞれ異ってくる家族構成員の運命と作品に現れた理想的な家族像について考察 してみた。
作品に描かれた父子は根源的な人間の紐帯を現わし、一緒に極楽往生するという 宗教的な昇華を経てやがて親子地蔵として人々に拝められるようになる。またこのよ うに堅い絆で結ばれた父子関係は死を伴う母女の犠牲に基づいて成り立っているが、 彼女らの犠牲は父子の追善供養によって報いられる。一方、話は現世にてあらゆる試 練を乗り越えた家族がやがて来世で合一されるという結末で締めくくられている。
説経『かるかや』をめぐる既存の研究は主に夫婦関係及び親子関係に対する諦め、 断念の非情さないし家族の解体の物語”という側面から論じられてきた。ところが この作品を家父長の理想実現や彼に向う家族の回帰意志、そして来世における家族 の統合などの展開に視座を据えて眺めると、たとえ家族構成員の役割及び位相の固 定化、また現世の否定という面は認められるものの説経『かるかや』の主題として運 命共同体としての家族の因縁と合一の強調が挙げられると思う。