減石の生存した時代は明治維新から日戦争及び日落戦争を経て第一次 世界大戦にいたる、日本の国運の上昇と並行している。そして、この時代 は近代的文明開化と並行して天皇制という前近代的家族国家の体制が確立さ れた時期でもある。ここから数石の内面的意識構造一時代と一致しようとす る側面と時代を超克しようとする側面が形成された。なお、彼の内部の東 洋的教養と西別教養の対立も避けられず、微妙な両面的意構造が破き れたのである。 明治時代に確立された天皇制家族国家体制は、その出発から送別と侵略 を当然とした体制であったので、アジア諸国の人民はいうまでもなく、日 本国民にも甚大な被害を与えたのである。就石は明治人としてこの時代の 天皇制家族国体制に対して全中にわたって本本的には支持する立場で あった。しかし、英国留学を終えて帰国してから朝日新聞に入社するまで は東京帝国大学第一高等学校の制度図にありながら体制に対して批判的 で、挑戦的な姿勢をとっていた。けれども日新の人社をきっかけに批 判の強度はしだいに緩和されてきたが、特有の鋭い批判は依然としてやま なかった。しかし、1909年の秋、一カ月当はどの満旅行」を通して日本 の大空侵略の現場を自授月撃してから、うまく行っていると判断したらし く、民族的自負心が高くなると同時に天皇側の家族国家に対して肯定的に なる。そして、ちょうどそのころにこった「大逆事件」を通して制家族 国家権力の横暴に対する恐件心も作用して、今までの彼の批判的な姿勢は 大きく変化する。「満韓旅行」以後、彼の作品の中には体制批判や社会批判 は言うまでもなく、文明批評さえもほとんど見ることができない。その代 わり、彼の視線は人間の内部の方へと転換し、解決の見込みもない人間の エゴイズムの問題を限らなく追究することになる。矛盾だらけの天皇制の 家族国家の体制の下で彼が無事に文名を維持し、一時の安全を守ることが できたのはそのためだと思う。それゆえ、彼の「自己本位」思想も実はエゴ イズムとかわりないものではないかと思う、彼の「満韓旅行」の時の植民地 の人民に対する無神経、「大逆事件」及び「韓国併合」に対する沈黙、侵略戦 争に対する肯定的な態度などがその証拠である。このように、彼の「自己 本位」思想は天皇制家族国家の統治の理念である「忠孝」の障壁の前では近 通してしまう限界性をもっていたものである。 柄谷行人が、文学の本質は「排除された可能性の復旧」にあるから、「現実的 には不可能であっても人間の解放の為に努力しない文学はただの娯楽にすぎ ない」と言ったことに同地する立場から見ると、1909年「満特旅行」以後の歌 石文学は「吸楽」の製があまりに多い文学ではないかと思う。その理由は、 「満旅行」以後の彼の作品には自由や平和や人権という人間の普遍的な価値 を徹底的に抹殺した天皇制家族家体制に対する批判はともかく、女子、 下層民,被圧迫者、無学者、植民地人民など、学者の解放の為の努力はほと んど見出せず、ひたすら食べることに不自由しない高等遊民たちの他愛問題 によるぜいたくな短問がけとして取り上げられているからである。